誰にも言えない

ぐずぐずの引きこもりの私。いつからこうなったのだろう。誰にも言えないから書きます。

知ってしまった 続き

「知ってしまった」の続きです。


お迎えを頼まれた日、息子とそのお友達を車に乗せて、その子の家に向かう。頼まれた通りアパートの前で降ろすつもりだったが「息子くんに貸したい漫画本があるので、ちょっとだけ寄ってください」とその子が言う。「お母さんがお留守なので寄れないよ」と言ったが「どの漫画本がいいか選んでもらうだけだから、お願い!」と言うので、私は迷ったのだが、結局、三人で車を降りて、部屋まで向かった。


部屋に着き、その子がドアの鍵を開けた。私は「ここ(ドアの外)で待ってるから、借りる本を選んだらすぐに帰るよ」と息子に言った。


2、3分で息子が漫画本を数冊持って出てくると、お友達は犬を抱っこして、小学校低学年の弟と一緒に出てきた。弟くんが家でひとりで留守番していたんだというのにちょっと驚いた。犬は以前の一戸建ての家で見たことのある可愛いシーズーだ。私は「あー、可愛いー。名前なんだっけ?」と聞いて、犬の頭を撫でた。そういえばウサギも飼っていたことを思い出したので、「ウサギも元気にしてる?」と続けて聞くと、ちょっと沈黙があってから「ここにはいない。お父さんの所にいる・・・」と答えてくれた。


え?どういうこと・・・?と一瞬考えたが、すぐに状況が推測できたので、とっさに何でもない風に「あー、そうなんだー。」とだけ私は答えた。そして「じゃあまたね。今度またうちに遊びに来てね。」と言って、息子と二人で車に向かった。


恐らく、別居しているか、離婚したかのどちらかだろう。聞いちゃいけないことを聞いてしまったか。お母さんからお迎えを頼まれて、新しい住所を教えられた訳だし、一戸建ての家からアパートへの引っ越しということから連想される家庭の状況の変化を、私に知られる覚悟はあったとは思うが、家に寄らなければ知ることはなかったかもしれない。いや。車の中での会話で、ウサギのことを話題にする可能性もあるわけだし、家に寄る寄らないは関係ないか、とも思う。でも、家の前で降ろしてくれていいからと言っていたのに、やはり申し訳なかった。


子供の口から聞くよりは、私から話しておこうと思い、今、お子さんを無事送り届けた事。漫画本を貸してくれるというので、息子だけがお宅に数分入った事。その間、私はドアの外で待っていた事。息子が無断で上らせてもらって申し訳なかったという事をメールした。


詮索するつもりはないと思いながらも、彼女が学校に通って就職したのは、離婚を見据えてのことだったのかな、などと考えてしまう。


メールの最後に「また送り迎えが必要な時はいつでもどうぞ」という一言をいったんは書いたが、消した。友達だったら迷いなく書いたと思うが、そもそも、友達だったら引っ越した事情を聞かされているはずだ。そういう間柄でない私からの、変な同情のように受け取られるのは嫌だったし、彼女もいい気はしないと思った。


予期せず、他所の家庭の事情を知ってしまった。お役に立てるなら、送り迎えくらい、いつでもしてあげたい、というのが本心だが、それを伝えるのを躊躇する。嫌味なく、さらっと善意で行動できる人を尊敬する。こういう時、うまく踏み込める人と、そうでない人の差が出る。私は踏み込めない人間だ。